じゅうしん街コラム COLUMN

 相続税対策のお勉強

2019年4月5日

相続税対策としてどのような方法が考えられるのか?基本となるのが以下の3つです。

(1)生前贈与の活用

(2)生命保険への加入

(3)不動産投資による相続財産評価額の引き下げ

【生前贈与】非課税枠110万円を活用して財産を圧縮

1番目の生前贈与の活用とは、本人(被相続人)が存命中に相続税の課税対象となる財産を子供や孫などに贈与し、財産の総額を減らすことで相続発生時の税負担を和らげようという方法です。

贈与税には、1人あたりの贈与額が年間110万円まで課税されないという非課税枠(基礎控除)があります。たとえば父親が長男に年間100万円、長女に同70万円を生前贈与した場合、どちらも基礎控除の範囲内なので2人とも贈与税は課税されません。

その一方、父親の財産は170万円(100万円+70万円)減らすことができます。これを毎年繰り返せば確実に財産の減額が実現し、10年間では合計1700万円の財産を圧縮できます。かなりの節税効果が期待できます。

また、マイホームの取得を検討している人向けの対策として「住宅取得資金の贈与の特例」もあります。課税される消費税額が10%(図表1)なのか、それ以外(8%あるいは非課税)なのか(図表2)によって、さらに契約締結日と住宅性能に応じて下図のような贈与税の非課税額が用意されています。自ら住むための住宅の新築・購入のほか、自宅リフォームの工事費用にも適用されます。

【図表1】課税される消費税率が10%の場合の非課税額

【図表2】課税される消費税率が10%以外の場合の非課税額

※利用にあたっては一定の適用条件あり

注意点として、贈与は贈与者(贈与する人)と受贈者(贈与される人)双方の合意によって成立する契約行為であるため、年間110万円の非課税制度を毎年のように利用する場合は、その年ごとに贈与契約書の作成・締結が欠かせません。税務署対策と考えて差し支えないでしょう。そのため、贈与の記録を残しておくことも税務署対策として必要になります。金融機関の口座を介して現金の受け渡しをするようにしましょう。通帳に取引履歴が残るので、証明書類として活用できます。

なお、毎年、贈与契約を結び、各年の贈与額が110万円以下(基礎控除の範囲内)である場合には贈与税がかかりませんので、受贈者は確定申告の必要はありません。年間110万円超の贈与を受けた年だけ確定申告すればいいのです。

【生命保険】死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで相続税が非課税

続いて、2番目の生命保険への加入も相続税対策の王道となります。

なぜ、生命保険への加入が相続税対策になるかというと、被保険者の死亡によって支払われる保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までは非課税になるからです。たとえば、父と母、長男と次男の4人家族がいるとします。母親が生命保険(死亡保険金1200万円)の契約者かつ被保険者で、長男と次男が死亡保険金の受取人(給付割合2分の1ずつ)の保険契約を結んでいるとしましょう。

不幸にして母親が亡くなった場合、長男に600万円、次男にも600万円の死亡保険金が支払われます。この合計1200万円は相続税の課税対象になるのですが、このケースでは父・長男・次男の3人が法定相続人になるため、500万円×法定相続人3人=1500万円が非課税枠として利用できます。

その結果、死亡保険金1200万円は非課税枠の1500万円内に収まり、死亡保険金には相続税が課税されないことになります。つまり、1200万円分の課税対象額を減らせたわけです。死亡保険金は遺族の生活保障としての意味合いがあるため、税制上の配慮がなされているのです。

死亡保険金の非課税額 = 500万円 × 法定相続人の数

さらに死亡保険金での相続は、次のような場合にも有効です。

(1)不動産中心の財産構成のため、均等な遺産分割がしにくい場合

(2)法定相続人以外の人に相続財産を渡したい場合

(3)特定の人に多く相続させたい場合

相続財産の半分近くが不動産(土地・建物)で占められている現実において、財産構成が不動産中心の場合、均等な遺産分割は困難になります。そこで、事前に不動産を引き継がない相続人を想定して生命保険に加入。死亡保険金の受取人にその相続人を指定しておけば、不動産は受け取れないものの、代わりに保険金(現金)が手に入ります。遺産分割の不均衡が解消されます。

同様に、法定相続人以外の人に相続財産を渡したい場合も、その人を死亡保険金の受取人に指定すれば「死亡保険金」という名目の相続財産を渡すことができます。さらに、特定の人に多く相続させたい場合も、死亡保険金の給付金額を特定の人に増額して保険契約すれば実現可能です。死亡保険金の受取人を指定、あるいは給付額を被保険者の遺志に応じて変動させることで、(1)~(3)の場合に威力を発揮します。

【不動産投資】相続税評価額を大幅に抑えられる

最後に、不動産投資によってどのくらい財産評価額が引き下がるのか。実例を交えて紹介します。

相続税額の算出における財産評価の原則は、相続が発生した時点の時価となります。しかし、時価と言われても不動産の鑑定評価は容易ではありません。上場株式のように株式市場でリアルタイムに取引されていて、誰もが簡単・公正に時価評価できればいいのですが、不動産の場合はそうはいきません。

そこで、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基礎とし、そのうえ利用状況に応じて借地権や借家権を乗じて相続税評価額を算出します。評価方法を統一することで、評価する人によって結果にバラツキが出ないようにするためです。

以下、相続対象が不動産の場合と現金の場合とで、どれくらいの節税効果となるのか、東京都目黒区内に実在する2階建て木造アパートを例に説明します。

 

【図表3】2階建て木造アパートの相続税評価額を算出

対象物件は賃貸目的の共同住宅です。そのため、利用状況は貸家を建設するための用地という意味で土地は「貸家建付地」、建物は人に貸すための家屋という意味で「貸家」となります。また、固定資産税評価額に路線価、借地権割合、借家権割合はそれぞれ【図表3】のようになっています。

そして、この数値を用いて相続税評価額を計算(途中の計算方法は省略)すると、土地は(A)1519万円、建物は(B)38万円となり、合計して木造アパート全体の相続税評価額(A+B)は1557万円になります。

一方、時価はいくらになるでしょうか。気になったので、このアパートを売却したら、いくらで売れるか査定してもらったところ、2500万円~3000万円との回答でした。よって、中間を取って成約価格(=時価)が2750万円だとした場合、先に算出した相続税評価額は時価の約57%となり43%の圧縮に成功したことになります。

現金で2750万円を持っていれば、2750万円の評価になるわけですが、このアパートを購入していると相続発生時の評価額は1557万円となり、差額の1193万円を資産圧縮できる計算です。

なぜ、資産家が都心にある高層マンションを投資目的で購入するのか。大地主がわざわざ所有地に賃貸アパートを建設するのは、どうしてなのか?―― 現金が不動産に姿を変えるだけで、大幅な評価額の軽減が期待できるからです。無論、投資ですからリスクは付き物ですが、それ以上のリターン(節税効果)を狙って不動産投資に傾倒するわけです。

相続税の節税対策には、(1)生前贈与の活用、(2)生命保険への加入、(3)不動産投資による相続財産評価額の引き下げ  の3つがあることを覚えておいてください。

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